旅と日常のあいだ

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北極の夜を越え、4か月ぶりに見る太陽とは。『極夜行』角幡唯介

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『極夜行』角幡唯介

数年前から妙にはまっている、探検家で作家の角幡さん。『極夜行』は2018年2月発行で、昨日11月8日にノンフィクション版本屋大賞の第1回受賞作に選ばれた。やったねえ角幡さん! この本について著者本人が「評判はいいし各所で取り上げられる割には売れなくて切ない」的な発言をちょいちょいしているので、本屋大賞をきっかけに露出が増えて部数が伸びることをお祈り申し上げる。

このノンフィクションの舞台は冬の北極。地図や情報の空白部がどんどん少なくなっている地球上で、社会のシステムが及ばない未知の世界を求める角幡さんが選んだのが太陽が登らない極夜の地だった。その行程をひとりきり。しかも4か月間。太陽のない完全な闇の世界。しかも当然寒い。荷物はぜんぶソリで引く。何もかもが想像の域を超えてるけれども、それを実際にやり遂げて帰ってくる体力とか精神力とか、そこで見たもの感じたことを文章であざやかに伝えてくれる仕事とか、いや角幡さんものすごいわ、このものすごい作品をありがとう!っていう気持ち。『アグルーカの行方』もそうだったけれど、探検の行末が気になって読むのをやめられないのだった。

途中にはトラブルが続出。日が昇らず他の人間が誰もいない北極圏でのトラブルなんて生命の危機以外の何ものでもないと思うんだけど、自分の位置を知るための六分儀をなくす、数年かけて用意しておいた食料保管庫を熊に荒らされる、美しすぎる月光に惑わされて迷子になるとかね、トラブルの悲惨具合もこれまた規格外なのだった。角幡さんはそれをどう切り抜けたのか? とりあえず読者は、この本が発行されたことをもって「角幡さんは探検から帰ってきた」ということはわかってるわけだけど、そこに至るまでの時間や体験は、それはもう凄絶でスリリングで読み物としておもしろい。

極夜での日々を角幡さんと共に過ごしたのはウヤミリックという名の犬。ソリの引き手であり旅の仲間、文中にウヤミリックの行動や仕草が出てくるとかわいくてほっこりする。が、後半、食糧が尽きてくると、犬の餌を確保できないから犬を死なせるしかない、犬の肉じたいを自分の食糧にするしかないという冷静な判断も常にあって、私がもってる普通の感覚や常識と、命ギリギリ極寒の北極でのそれは、もうまったく土壌が違うのよねっていう当然のことにハッとさせられたりするのだった。

そして、ついに迎えた4か月ぶりの夜明け、4か月ぶりに見る太陽の光。角幡さんがそれをどこで、どんな状況で、どんな思いで見たのか、そのとき何を感じたのか。読んでるこっちも「ああっいよいよ太陽が!!」という渇望感が高まっているので、その情景を思い浮かべながら一緒に体験できる感じ。読み終えて、ずっしりと説得力があるというか、圧倒的にパワフルというか、「ものすごい旅路だったな…」としみじみ息を吐きたくなるのだった。秋冬の夜長にまた読み返したい。