旅と日常のあいだ

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恩田陸『蜜蜂と遠雷』感想。ピアノコンクールの舞台に立つ演奏者の姿が立体的に見えてくる

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恩田陸『蜜蜂と遠雷』

2017年本屋大賞&直木賞受賞作。国際的なピアノコンクールに挑む、主に4名の演奏者にスポットをあてた小説。ああ、いい読書体験をしたなあと心底うれしくなる作品だった。

コンクールの舞台上で奏でられるピアノ、その曲名やメロディーを知らなくても、まるで同じ会場にいるかのような緊張感や臨場感をもって読める。ピアノはどんな音量で鳴ったのか、客席がどんな反応をしたのか、演奏者は曲をどのように解釈しどう表現したのか、そのときどんな表情をしたのか、音を聞いたときに語り手が思い浮かべたのはどんな風景だったのか。

そういう描写が丁寧で、でも説明くさくない。作中にはピアノを弾くシーンが多数登場する(なにしろ練習、そして予選から本選まで何度も演奏をするわけだから)けれども読んでいて飽きることがなく、さあ次はどんな演奏を見せてくれるんだろう、会場はどんな雰囲気になるんだろうとわくわくした。ストーリーはもちろん、この描写ができる作者の技術が素晴らしい!という視点からも楽しめた。

早く先が読みたくてたまらず、しかし残り少なくなってくるともったいなくてたまらず、読書におけるこういう幸せな感覚は久しぶり。ページの終わりが近づくにつれコンクールの結果が気になってドキドキしてくるのだが、「待てよ、もしかしたら結果を明らかにせず読者にゆだねるタイプのラストかもしれない、それはイヤだな」というドキドキも発生。そして最後は……。コンクールの結果がしっかり書かれ、その順位に納得。これからの未来に明るさを信じられるような内容だった。すごくよかった。

読後は、うちにあるモーツァルトやバッハのピアノ曲CDを引っ張り出してきて聴いている。作中で演奏される、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ 第十二番ヘ長調K332」第一楽章がお気に入り。冒頭から聴いた上での、1分06秒あたりからの展開!!