旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。



傷を負った伝書鳩を助けて、飼い主に返した話

職場でのできごと。外出していたスタッフが、「駐車場で、カラスに追い回されてケガをしたハトを見つけた。自力で動けない様子だったのでつかまえてきた。ちょっと電話してあげて」と言って、ハトを抱えて戻ってきた。社内にいた数名、突然のハトの登場にざわめく。

ハトを連れ帰ってきてどうするの?という驚きと、電話って一体どこに何のために?という疑問がわいたが、ハトを見て納得。ハトの脚にはタグが付いており、このハトが伝書鳩であることと、「見つけた方はこちらまで」という飼い主の電話番号が書かれていたのだった。

伝書鳩!!!

その名も存在も知っているけれど、この目で見たのは初めてかも。物語とかには登場するけれど、現代の日常世界にも実在していたのね。とりあえず箱に入れて、カゴでフタをして、カゴ越しにハトを観察する。どこをどうケガしたのかわからないが、翼を広げたり動き回ったりということは一切せずおとなしい。ケガの有無に関わらず、「預かり物を持ち帰る」という使命以外の行動は極力慎むようしつけられているのかもしれん。

飼い主は15kmほど離れた町の人で、電話をしたらすぐにやって来た(上下とも白い服のおじさんであった)。おじさんはハチミツの瓶を持っていた。瓶をそのへんの棚に置き、ハトを囲っていたカゴを開けると、右手ひとつでクルッと巻き込むようにハトをつかまえた。それはもう一瞬の早わざで、ハトになにか声を掛けるとか合図を送るとかいう素振りもなく、片手でくるっと。右手にすっぽりくるまれるような格好になったハトの翼の付け根を見て、「右がやられているな」とおじさん。

私はおじさんが持参したハチミツ瓶が気になっていたので、ここで「それはハトのえさですか?」と聞いてみた。伝書鳩に言うことをきかせるにはハチミツが一番だとか、翼のケガにはハチミツが効くとか、そういうことなのかなと思って。そしたらおじさん、それには一切答えず、右手のハトを次はくるっと左手に移動させ、空いた右手でハチミツ瓶をやおらつかみ取って、見守る我々の前に瓶をドンと置いた。そして一言、「ありがとうございました」とだけ言い残して去っていった。ハチミツを置いて、ハトとともに去りぬ。

「ハチミツはお礼の品だったんだね」「誰だ、ハトのえさとか言ったの」「うっ、私です」「お礼のつもりが『ハトのえさ』とか言われて、ちょっと出しづらかったかもね」「ううっ」「しかし、なぜハチミツ」。

ハチミツ瓶の裏を見たら、製造者としておじさんの名前が書かれていた。なんとまあ、自分のところの商品であったのね。ってことはあのおじさん、ハトだけでなくミツバチも飼いならしているということか。そういえば黒い服はハチにさされやすいとかいうし、だから上下の白い服ってこと!?

ところで伝書鳩の仕組みってそもそもどうなってるんだっけと調べたら、その行動原理は帰巣本能によるものだった。どこかの場所から自分の巣には戻ってこられるが、自分の巣以外の場所を目的地にすることはできない。常に片道きっぷ、しかも行き先は自分の巣のみということだ。よって、出発地まではあらかじめ輸送しておく必要があるそうで、そうだったのか伝書鳩って不自由な伝達手段だなと今さら思ったり。今回みたいに途中でケガする可能性もあるしね。しかし伝書鳩とは。驚いたわ。