旅と日常のあいだ

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〆切に追われる作家を見る、という楽しさ。「〆切本」

〆切というのは嫌なものだ。仕事の〆切のない世界に行きたいと何度願ったことか。私にとって〆切は、時間や作業量をきちんと区切って健全に過ごすための指標、という前向きなものになることはあまりない。どこまでも追ってきて、追いつめて苦しめて息も絶え絶えにさせておいて、そのくせある瞬間にフッといなくなって「なんだったのあの地獄の日々は」と空虚な気持ちにすらさせる、そういうもの。〆切っていうのは。計画性がないからこうなるんだよね、毎度毎度ね。

自分に降りかかる〆切は嫌なものでしかないが、〆切に追われている人を傍観者として眺めるのはどうしてこんなに楽しいんだろう。なんていうと性格の悪さを露見しているようでアレだが、最近読んでいるおもしろい本。

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『〆切本』左右社

この帯のコピーのとおり、「なぜか勇気がわいてくる。」、まさにこれ!

90名の作家の、〆切にまつわるエピソードあれこれを集めた本。〆切を前に窮地に追い込まれた作家たちが、言い訳したり、開き直ったり、現実逃避しようとしたり、むちゃくちゃな方法で取り繕おうとしたりする。すごく面白い。いっぽうで〆切は守って当然だという作家による文章もあって、それを読むと「誠にすみません、おっしゃるとおり、〆切を破るわたくしめが悪いんでござんす」という気持ちになる。

それにしても〆切を前にした作家たちがひねり出す一言、それが悲痛であればあるほどおかしみがあるっていうね。

〆切に間に合わず、「私(作者)の頭脳は、完全にカラッポになってしまったのです。」と言い切ってしまう柴田錬三郎氏。そんなことを言っても〆切は待ってはくれない。が、そこは作家、頭がカラッポでどうしようもないからもう許して!っていうそれだけで一編を書き上げて原稿にしてしまうのはさすがだ。二度とは使えない手だけれど、やっぱり面白い(というこのブログ記事を、私は今、ゆるやかに迫ってくる3つほどの仕事の〆切の気配を感じながら書いている)。