旅と日常のあいだ

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姉妹の美しくも異常な日常、「ずっとお城で暮らしてる」

小説『ずっとお城で暮らしてる』を読んだ。シャーリー・ジャクスン著、市田泉訳、東京創元社

これまでに読んだことのないような、というか自分が手に取ったことのない種類の小説だった。ジャンルで言うと、サイコホラー? 

とある町はずれの広大なお屋敷に、人目から隠れるように若い姉妹とその叔父が暮らしている。彼らは外界とほとんど接触することなく、彼らのルールにそって過ごしている。この屋敷では、数年前一家が惨殺されるという事件が起きた。彼らはその生き残りであり、同時に町の人からは残忍な殺人者であると思われているのだ。

舞台設定も環境も、一言でいうと「ものすごく異常」。なんだけど、物語はごく自然な語り口で淡々と始まるから、なんか変だなあと思いながらもすんなりと異常な世界に入っていってしまう。入っていく、といっても、「どういうことだろう、彼女らは何者なんだろう、何が起こったんだろう」という謎や違和感はずっと続いたまま。やがて彼らの生活に割って入ろうとする人物が現れ、とりかえしのつかない事件が起こる。どんなときでも一番怖いのは人間の集団心理だな、と思うようなこと。そして同じくして、読者は、一家惨殺にまつわる謎を知ることになる。

いやあ、非常に面白かった。内容とかエピソードには「こわっ!」という点が多々あれど(グロテスクなものはない)、主人公姉妹の浮世離れした感じ、姉妹二人が他人には入りこめない強い感情で結びつきあっている感じ、その危うさや不自然さに興味を引かれながら読んだ。

この屋敷で大勢が死のうが町じゅうの人に後ろ指をさされようが、彼女たちの生活は揺るがない。閉ざされた空間で花を育て、秘密の隠れ家を整え、ある種の呪いとして土に金貨を埋め、木の幹に本を吊るし、車いすバリケードを作る。どう見ても気がおかしい世界、世間とはズレまくっている世界なんだけど、それゆえその世界が美しくロマンチックなものにすら見えてくるというね。同じ作者のほかの作品も今すぐ読みたくなった。

知らない作者、知らないタイトルのこの本を手に取ったのは、とある書店で「バースデー文庫」なる企画をやっていたのがきっかけ。365日(+1日)の誕生日の著者の作品を一堂に並べるというもので、まずは自分の誕生日を見るよね、それがこの作品だったのだ。なーんだ知らない作家だ残念、どうせなら好きな作家がよかったなーと思って一度は素通りしたのだけれど、いや、こういう場面で、「知らない作家だけれど面白そうだから読んでみよう」って考えるほうが素敵じゃないか?と思い直してあとから買ったのだった。

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こんなふうに日付が入ったカバーがかかっている。一年分ぜんぶ。

シャーリー・ジャクスン、一気に「好きな作家」になった。誕生日が同じだからという勝手な親近感もその要因だ。しかも1916年生まれ、奇しくも今年は生誕100年! ほかの作品もがぜん読みたくなったよ、いい出会いだった。