旅と日常のあいだ

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おとぎの世界を塗りたい衝動に駆られ

去年くらいから流行していて、売り場にはさまざまなバリエーションの商品が並んでいて、しかし店頭でそれを目にするたびに、「これだけは手を出すまい」と思っていたもの。

いわゆる「大人の塗り絵」である。

こんなの絶対はまってしまう。地味で細かくて一人で没頭できる系の作業が大好きな私には危険すぎるアイテムだ。昼も夜も塗り続けてしまうことは目に見えているが、先日ついに買ってしまった。そして今、案の定、「塗り絵をしたいから早起きをする」というレベルでハマっている。いやだあぁぁ!

「大人の塗り絵」と呼ばれるものは数年前からあった。おもに名画や浮世絵を対象として、お手本に似せながら詳細な色分けをして塗っていくというもの。かわいい趣味ではまったくなく、そうね、誤解と偏見に満ちた私の認識としては、我が母がクロスステッチにハマっているのと同様、時間を余らせている(どちらかというと)年上の方々が好む間口狭めの遊びというか。

そしたらまあ、昨今はこれが形を変えてブームとなっているではないか。書店でも雑貨屋さんでも、ちょっとした塗り絵コーナーができている今日この頃。何を塗るかといえば、名画でも浮世絵でもない、「フランス生まれの花モチーフ」とか「北欧のシンプルなテキスタイル」とか「森の花と小鳥たち」とか。「大人かわいい」というやつだ。モノによっては「塗り絵」ですらない。「コロリアージュ」というらしい。コロリアージュ!! 何これフランス語? くすぐったい響きが目論む販売戦略のとおり、塗り絵(コロリアージュ?)は今や、暇なおばさんの奇妙な趣味(失礼)ではなく、おしゃれな女性が気分転換に楽しむ明るい趣味(あくまでも私のイメージ)となったのであった。

いつの間にか「大人かわいい」という属性を得た塗り絵たち、売り場ではセラピー効果だの自律神経を整えるだのという枕詞まで付いて、いかにも女性が好みそうな一趣味として仕立て上げられている。そのせいでまた、塗り絵に対する私の思いはいっそう複雑化してしまうのだよね。ただ単に絵を塗りたいだけなのに、前から本当に興味があったのに、今ここで塗り絵を始めたら流行に飛びついただけの軽薄なやつに思われるんじゃないか(誰に?)とか、仕事や何やのストレスを塗り絵なぞで慰める哀れなやつだと思われるだろう(だから誰に?)とか。

そしたら先日、そんなくだらない思いを吹っ切ることが二つあった。

一つ、友人に塗り絵の話をしたら「そんなの流行ってるの? 全然知らない」と言われたこと。

二つ、妹が「いま塗り絵にはまってる。こんなに買った!」と5冊くらい見せてきたこと。

あー、そうか。知らない人はまったく知らないし、やりたい人はどんどんやるってだけのことだった。私は一体何をごちゃごちゃ言っていたのだろうか。塗りたい思いを抑えられず、その足で出かけて塗り絵2冊と色鉛筆をまとめて買ったのだった。

花とか動物とか町とかいう図案にはまるで食指が動かず、私が断トツでときめいたのは、おとぎ話の塗り絵。もう一冊は、「お姫さまと妖精」。 お姫さまだよ! いい大人なのに、今も心にお姫さまへの憧れがひそんでいるなんてどうしようもなく恐ろしい。恐ろしいが、お姫さまはかわいい。そしてかわいさには逆らえない。震える手でお姫さま塗り絵を買う私、大のオトナですけれども何か。

大のオトナである私は、色鉛筆だってよくある三菱の24色セットとかじゃ満足しないのである。私が買ったのはトンボの「色辞典」、これだ。30色で1組、第1~3集までの全3組。発売されたのは1988年というからもう30年近くも前なのね! 

小学生であった私はこの「色辞典」に胸をときめかせていた。色の名前と組み合わせがなにしろ素敵で、物語的というか、夢が詰まっている感じがしたものだった。このセットには赤とか黄という色はない。珊瑚、桜貝、忘れな草ラピスラズリなど、色には自然物の名が付いている。それが10色ずつキレイな箱におさめられており、本棚に立てて収納できるようになっているのだ。しかし30本3000円なんて、小学生には買えるわけがない高級品。憧れの色辞典のことはその後ずーっと忘れていたが、この塗り絵ブームで急に存在を思いだし、まだ売っているのかどうだろうかと文房具売り場を見たら変わらずに売られていて感動、ロングセラーばんざい!って思いながら購入したのであった。一秒の迷いもなく、3000円の色鉛筆を即決で買う。大人になるってこういうことか。

長すぎるこの文章で言いたかったのはひとつだけ、「塗り絵めちゃくちゃ楽しい」。

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カレンダー仕様だから、塗ったあと壁に飾れるんだ。今は「赤ずきん」の塗りに夢中だぜ