旅と日常のあいだ

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私たちはどこに向かって吠えればいいの。酒井順子『負け犬の遠吠え』

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2003年の出版当時、問題作・衝撃作として話題になった、酒井順子『負け犬の遠吠え』。それから13年後の今、初めて読んだ。

この本の定義する負け犬とは、30歳以上、未婚、子どもなしの女性のこと。著者がこれを書いたのと今の私がだいたい同じ年齢で、同い年の友人に「とにかく読んで。私たちのことが書いてあるから。身につまされるから」と勧められ、「私たちって何かに負けてるの? 読んでどうなるの、負け犬からの脱却方法が書いてあるの?」と聞くと、「ひとまず自分の立ち位置が確認できる」という返答。

確かに「ああ~、わかるわ!」という部分が多々あった。それ私のことだわ、って。

いわく、負け犬が依存しがちな趣味として
・和風趣味(古典芸能や茶道や習字)
・踊り(サルサとかフラメンコとか)
・手芸
・旅行(おもにひとり旅)
が挙げられていた。

なんという戦慄。確かに和風は大好物、同年代の友人と遊ぶときは寺社仏閣に歌舞伎に落語にという話になるし、そういえば私は盆栽が好きだ。

踊り要素は今のところゼロだけれど、手芸についてはリカちゃん人形の服作りといういろいろな観点から痛々しいレベルに達している。

そして旅行。これだ。酒井さんが特に「重症」だとしているのが、鉄道旅行、しかもローカル線乗り継ぎ旅。あ、それ、私のことです。この本を読みながら、まさにいま鈍行列車による遥かな旅行計画を練っていた私は笑うしかなかった。ああ、だからか…。そっか、負け犬かぁー!!

そもそも何に対する勝ち負けなのかとか、なんでそうなったとか、じゃあどうすればいいのとか、酒井さんの視点でズバズバ書いてある。独断や推測がいっぱいだけど、これをもとに何か議論をしようとか、論述の粗い部分を探そうとかいうことではなく、一冊まるごと壮大なユーモアとして面白く読んだ。

さすがに13年前の本なので、事例や意識が古いのは仕方ない。たとえば、本の中では負け犬界のトップとして紀宮様が挙げられているが今は結婚された(しかし大胆な例だな)。このころは婚活とかマウンティング女子とか草食・肉食という単語もなかった。「いい年して独身」ってことへの風当たりや異端感や罪悪感は、たぶん今より強かった。

というわけで、いま読むとちょっとズレてるなと感じる部分が少なからずあるのだが、もし再び、いま現在の言葉や風潮や環境を踏まえて、同じテーマで酒井さんがエッセイを書いたなら。たぶん、これを勧めてくれた友人も私も、共感の糸がドンピシャで震えて止まらなくなって、プツッと死んでしまいそうだな。