旅と日常のあいだ

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究極の栗菓子「朱雀」を食べに小布施堂へ

まだまだ続く栗ネタ。ついに! 念願の! 秋の小布施に行ってきた。

長野県小布施町といえば栗、栗の季節といえば秋。小布施にはこれまでに二度行ったが、一回目は雪の降る冬で(雪の長野旅 小布施町で栗ざんまい )、二回目はブラムリーという小布施産りんごが目的だった(ブラムリーを求めて小布施町へ)。いつか栗のシーズンに訪れて、栗まみれになるというのが夢だったのである。

その夢のなかでも、最大最強の栗まみれアイテムがある。小布施堂という栗菓子のお店が作っている、「朱雀(すざく)」という和菓子だ。

見て驚くがよい、こちらがその風貌。

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蕎麦ではない。栗のかたまり、栗の結晶、栗のモンスターって感じである。

小布施堂の朱雀は知る人ぞ知るお菓子。麺みたいなこれ、純粋に栗のみで作られている。砂糖もクリームも一切入れず栗を裏ごししただけという潔さ。つなぎがないから箸でつまむとポロポロくずれて持ち上げるのも一苦労。そして、砂糖が入っていないので味はどこまでも「栗」である。この麺状の栗の下には栗あんが隠れている(こちらは甘く、ねっとりしている)。よって、始めは栗部分を味わいつつ、途中から栗あんの甘みと粘度をプラスして調整しつつ食べ進めるのがよろしい。これ、手をグッと握ったより一回り大きいくらい。栗15個分を使っているらしい。お茶付きで1000円。はじめ「お菓子ひとつに1000円って高すぎ!」ってビビったのだが今なら納得できる。この衝撃体験が1000円なんてむしろ安いとすら思う。

さてこの朱雀、簡単に食べられるものではない。時期も数量も限定でかなり入手困難なのである。栗菓子ひとつのためにそこまでするか?っていうレベルで、私と友人は途中何度も「自分にとって栗とは何なのか」という問いを突き付けられることとなった。 

・提供期間は新栗の時期のみ。9月半ば~10月半ば

・1日400食限定

・提供は一店舗のみ。通販なし、持ち帰り不可

・予約不可。提供は9時からだが、本店にて8:30から整理券を配布

人気沸騰のため整理券を求めて行列ができる。配布は8:30からだが、8:30に行ったのでは間に合わない。その時点で行列が400人に達している可能性があるからだ。平日ならともかく、休日ともなれば争奪戦は激化。ネットで調べたところ、午前7:30時点で250人が並んだ日もあるとか。確実に入手するため先頭組は徹夜する勢いで並び始めるらしい。

私と友人、昨年から朱雀がどうしても気になっており、今年は期間内にぜひ行こうと計画していた。そしてある休日に作戦を実行することにした。静岡から小布施までは車で4~5時間。静岡を深夜発でもいいのだが夜を徹して走り続けるのもつらいし、秋も深まるこの時期に車中泊も厳しい(寒い)。小布施町に宿をとって早朝から並ぶことにしよう。

しかし二週間ほど前にのんきに宿を探し始めた我々は甘かった。小布施の宿はことごとく埋まっており(栗シーズンの三連休をなめてたわ)、やむなく志賀高原の温泉宿を予約。小布施からは30分、まあ許容範囲内である。チェックイン時、「翌朝は5時台に出発する」というと宿の人は驚いていた。せっかくの温泉だっていうのに、朝風呂が開く前、っていうか夜が明けるまえに早々にチェックアウトする我々である。

5時にアラームをセットして就寝。6時前に宿を出て6時30分に小布施堂到着、1名が行列に並び、もう1名が空いている駐車場を探して駐車したのちに合流する計画だ。

翌朝5時。アラームがブンブン鳴っているのをムニャムニャとやりすごし、ハッとして「いかんいかん、これから戦闘だ!」と飛び起きた。さー頑張るぞ!と気合いをいれて窓を開けると、

……雨が降っていた。

嘘でしょ⁈と思った。昨日まで一週間ずっと晴れていたのに今朝に限って雨。これから2時間も屋外に並ぼうっていうのに雨。風邪気味で咳がとまらない状態なのに雨。友人とふたり弱気になる。「ただでさえ寒いのに、こんな雨の中で並ぶなんて正気じゃないわ」「朱雀って栗の裏ごしでしょ。ほかに何も混ざっていないということは、要するにゆで栗と同じ。並ぶ必要あるのか?」しまいには、「実は私、そんなに栗が好きではない」と友人。それを言ったらおしまいである。「いや待て、この雨で同じように弱気になっている人が大勢いるはずだ」「雨だからやめようって言ってる人の分ライバルが減る」「そう考えれば、この雨は恵みの雨!」

言い訳したり発破をかけたりしながら予定通りの6時に出発。小布施堂につくと傘をさした長蛇の列ができていた。先頭グループは折りたたみ椅子に座って毛布にくるまっている。まだ町も半分眠っているような時刻、車道にはみ出して増え続ける人の列。異様な光景であるが、これもひとつのイベントだと思えば楽しくなってきた。寒さ対策はダウン+コート+カシミヤマフラー+ニット帽+手袋でちょうどいい感じ。雨はだんだんと弱まり空が青くなってきた。定刻より早い8時に行列が動き出し、整理券の配布がスタート。6:45に並び始めた我々、8:30にようやく整理券をゲット(料金は先払い)。順番は108番目で(煩悩の数!)、13:30からの席とのこと。提供場所には「本店」と「本宅」の二つがあるのだが、我々は本宅の方だった。

本宅の中庭。私たちの席から見た眺め

そして話は冒頭に戻る(前置きが長っ!)。13:30に小布施堂本宅を訪ねて整理券を渡し、和室の広間に通されて朱雀との対面となった。ここにいる全員が、朱雀整理券を入手した猛者たち。着席と同時に朱雀が用意される(ほかのメニューはゼロ)。ネットやらチラシやらで朱雀のビジュアルは知っていても、いざ目の前に運ばれてくるとやはり声があがるもので、各テーブルで「おお~」「うわ~」「すげ~」などの感嘆が聞かれた。朱雀のすごさもさることながら、これを得るために朝から頑張った自分への賞賛とねぎらいも含まれているに違いない。

そのあとに各テーブルから聞こえてくるのは、「栗だ」「栗だわ」「栗だね」「栗そのもの」という声。私も友人も、一口食べて「栗!」と言い、そのあともずっと「いやあ、栗だね」「栗だな~」って言ってた。ふと目を上げると、どのテーブルにも楽しそうな人がいない。神妙な表情または何かと戦っている表情または無表情の人が多くないか? 朱雀は結構大きいので(そして味の変化が少ないので)、食べてるうちに 自分vs栗 って感じになってくる。きっとみんな心の中で、「どこまでいっても栗だな」「俺って(私って)本当に栗が好きなんだっけ?」「栗って何だっけ?」という境地になってるんだろう。

最後に、わたくしの朱雀の感想。

・とても美味しい。1.5倍くらいは食べられそう。

・思った以上にしっとり。麺状の栗は箸で取るとポロポロしているが、口に入れると一体化してなめらかになる。極上のマロンペースト。

・中の栗あんは甘め。甘さが上の栗の味を消してしまうかと思いきやそんなことはない。 

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中から栗あんが登場したところ。この写真では美しくない。むしろ、まがまがしい。

小布施堂の「朱雀」、2015年の提供は10/19まで。私たちが並んだ日は7:30くらいに行列に着いた人がぎりぎり400番目だったらしい(ツイッター情報)。整理券入手の壁は高いけれど、話のネタと満足度としては非常に大きい。来年も行きたいか?と言われれば、「平日に休みが取れるなら、行ってもいい、かも」。実はこの朱雀、洋菓子バージョンの「モンブラン朱雀」もあり、それは小布施堂の系列カフェで9:30から整理券を配布している。どちらかといえば次はこっちだな。それにしても長文の記事になった。やはりそれだけ事件だったのです、朱雀という存在は。

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