旅と日常のあいだ

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話題のミステリー、 ピエール・ルメートル「その女アレックス」

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「その女アレックス」 ピエール・ルメートル、訳・橘明美 (文春文庫)

このミステリーがすごい!をはじめ、ミステリー部門各賞を総なめにしている話題作。書店や書評では「大逆転」「衝撃の展開」「徹夜覚悟」と紹介されていて、おっしゃあ徹夜上等!と思って大型連休中に読んでみた。話のなかみはまったく知らないままに

引き込まれ引っ張られてガツガツ読んだ。面白かった。読後感は暗いけれども。以下、感想。具体的なことには触れていないつもりだが、これから読む予定の人、先入観を持ちたくない人は目を通さない方が賢明です。

 

第一章、主人公の女性(アレックス)が路上で誘拐され、監禁される。なぜ自分なのか、犯人はだれなのか、なぜこんな目に遭うのか。アレックスにも読者にもわからない。誘拐事件発生を受けフランス警察が動き出すのだが、担当刑事はワケあり人物。経歴も、ある意味でビジュアルも。

ここで描かれる監禁の様子が、まあひどい。よくそんなの思いついたねっていう独特さと陰惨さで、リアルに想像すると全身の関節が悲鳴をあげそうになる。監禁状態がいつ終わるのか、それはつまり殺される時なのか。何もわからない恐怖の中で、アレックスは必死の脱走を試みる。その方法もまたグロい。読めば読むほど手首がキリキリと痛くなるし、音とか匂いとかを想像すると息がつまりそう。ロープをネズミにかじらせるために、そんな方法を!!!! 首尾よくこの場を脱走できたとしても、いったいどうやってこの建物を出るのか、どうやって安全な場所に身を隠せばいいのか。文字通り死にそうなシチュエーションの中、アレックスの忍耐と執念と実行力たるや凄まじすぎる。この物語がどのように展開していくのか? アレックスとは、そして誘拐犯とは何者なのか? 興味が尽きなくなる。内容も描写もヘビーなんだけど、確かにこれは一気読み。

監禁されるアレックスと、その居場所を突き止めようとする警察。二つの視点が交互に入れ替わりながら物語は進む。

第二章では、アレックスの過去に関わりのある人たちが登場。アレックスを助けるべく捜査を進めるうち、第一章では語られなかった事実が明らかになる。物語が進むにつれて、登場人物に対する読者の印象はどんどん変わっていく。なになに、そういうことだったの?ってなる。

が、本の売り文句である「驚きの大逆転!」を期待している私にとっては、「ん?今のが大逆転なの?正直、あんまりたいしたことなくない?」と思ってしまったのも事実。トリックで驚かせてほしいという下心(?)が働きすぎてソワソワしてしまった。ちなみにこの第二章でもグロテスクな描写あり。本作を映画化するとなったら、直視できない映像のオンパレードになりそうだ。

あと、フランス警察にはメインキャラとして4人の人物が出てくるのだが、それぞれがいい味出してる。私が一番好きなのは断トツでルイ。イケメンでお金持ちでスマートという無敵っぷりだ。実際いるんだろうか、こんな刑事。こんな人にねちっこく事情聴取とかされたらたまんないわね!

そして第三章、物語は終盤へ。第二章で明らかになった事実に加え、さらにまた、読者の視点を変えさせる展開が飛び出してくる。相変わらず「これか?これが大逆転なのか?」と思いつつ、いや、私が想像していたような、世紀の超絶トリックによって大・逆・転!!という構成ではないらしいなとこのあたりでやっと理解。ものごとの裏のまた裏を見せられた感じで、何が悪なのか、根源はどこにあるのかがわからなくなる居心地の悪さが押し寄せてくる、そういう構成なのだ。ちなみに、ここでも想像に堪えない非道なエピソードが出てくる。身がよじれそうな辛さ。

とりあえず言えるのは、
・読み終えてハッピーな気持ちにはならない。やりきれない気持ち
・設定にぐいぐい引き込まれる
・暴力的な表現が多いので注意
・表紙の絵と内容はあまり関係がない
・タイトルが良い

というわけで、重ねて申し上げるが面白かったです「その女アレックス」。ところどころ、物語的に都合がよすぎるんじゃないかと思う部分もあったけど(捜査において事実が明らかになる過程で、棚ぼたみたいなところがあったり)、でも、それを補って余りある勢いがあった。

アレックスに幸あれ、と願わずにはいられない。