旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


北アルプスを見に、18きっぷで松本へ

土曜日に、登山仲間でもある友と山にゆかりのあるカフェに行き、あれこれと山の話をし、そのあと一緒にふらりと入った古本屋で山に関する本を買った。山の気分が高まって、いてもたってもいられなくなった。

というわけで翌日曜日、長野県は松本へ行った。北アルプスを見るためである(見るだけ。登りはしない。積雪時に登る技量も装備もない)。夜も明けぬ暗い時刻に家を出て、青春18きっぷで鈍行で。片道5時間の一人旅である。我ながら物好きなことだなあと思う。

海道本線、身延線中央本線と乗り継いで松本に到着。寒い。息が白い。 歩道にはまだ雪が残っていた。

マフラーに顔をうずめて歩き出す。北アルプスがよく見える展望スポットを調べておいたのだが、iPhoneを家に忘れてきたため(そして手持ちの地図もないため)、行くべき道も現在地すらもわからず迷子になった。私は一体どこにいるのかな……。同じ道を行ったり来たり、下ったり上ったり、リュックを背負って住宅街をウロウロする姿はどう見ても「あやしい人」である。通りがかりの中学生に道をたずねてやっと到着。まっすぐ行けば駅から30分のはずが1時間も経っていた。予定の倍もかかるとは、なんという方向音痴っぷり。

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目的地「城山公園」。園内にある展望タワーまでは結構な雪の道。タワーを登りきると全方位に視界が開けた。思わず「うわあ」と声がでる。

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北アルプスの峰々。これが見たかったのさ!

どれがどの山なのか一向に覚えられない私のような人のために、山の名を記した案内板も設置されていた。あの盛り上がったのがなんとか岳、隣の三角がなんとか山。風景と案内板を照らし合わせ、端から順番に山の名を特定していくこの作業が大好きだ。行ったことのある山には愛着を感じ、行ってみたい山にも憧れの視線を送る。

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中央の高いのが常念岳。その左側に稜線を下っていってV字になる手前、青い小さな三角が後ろから頭を見せているのが槍ヶ岳。やはり好きすぎるわ、あの鋭い絶対的な三角の頂上!

反対側には美ヶ原も見えた。想像以上の景色を見られて大満足。帰りは道を間違うこともなく街におりて(高い場所からだったので行く先を肉眼で確認することができた)、そのまま松本城へ。

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黒いお城、空と山の青、そして白雪が絵のような美しさ。ここからの常念岳も素敵。

帰りの電車までは、これも楽しみにしていた喫茶店「珈琲まるも」へ。食べたいケーキがたくさんで選べなかったので2つ頼む。リンゴのタルト、モンブラン、コーヒー。よくばり。

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おもむろに、昨日買った文庫を開く。タイトルは『山岳展望』。著者の深田久弥は『日本百名山』が有名。山のエピソードがたくさん収録されたこの本を読むには、やはり山のある街でないと。北アルプスを望む松本にて、美味しいコーヒーを飲みながら読書に没頭。これ以上はない至福の時である。

一人のおでかけは、知らない道を好きなように歩いたり、山の景色を飽かずに眺めたり、ケーキを二つ食べたり、何もかもが自由で気ままで楽しい。と同時に、友達や好きな人のことを思い浮かべて、この景色を見たらきっと気に入るだろうなとか、一緒に道に迷ったらどんな感じだろうとか、あの人はチーズケーキを選ぶだろうとか、このコーヒーの美味しさを教えてあげたいなとかずっと考えていた。

少し寂しいような、誰かに会いたくてたまらないようなこの気持ち、これは旅の感傷なのか、それとも春ゆえの物思いなのかしらん。とりとめのない思考は再び電車に揺られるうちにゆらゆらとした眠りのなかに沈んでいき(なにしろ帰りも5時間だ)、見慣れた東海道本線の見慣れた静岡駅に到着するころにはいいものを見ていい時間を過ごしたあとの心地良い感触がのこるのみ、電車を降りて一歩ホームに踏み出せば、また日常にすんなりと戻っていくのだった。

春の間に、行きたい人と、行きたい場所にたくさん行こう!