旅と日常のあいだ

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こんなに美しい道を知らない。川上未映子『ヘヴン』

 

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

 

川上未映子の『ヘヴン』読了。

読み終わって本を閉じた後も、呆然とした気持ちがずっと続いている。いいとか悪いとかじゃなく、何しろ衝撃が大きかったという意味で。こんなにもやもやが残る読書体験も久しぶりだ。そのもやもやが、ただ気持ち悪いものなのではなくて、もっと突き詰めて考えてみたい種類のもやもや。でもどこから何を考えたらいいのかわからなくて持て余してしまう。

中学生の「僕」がクラスメイトから受けるいじめの描写がつらすぎて、全身が粟立つくらい不快。不快っていうのは作者に対する文句じゃなくて、読んでる自分の気持ちとして。つらすぎて読み飛ばしたいのに目が離せなくて、本当に苦しい(だから人にはこの本を薦めたくない)。読者としては、「僕」がいじめを受け続けるその先に勧善懲悪的なカタルシスを求めてしまうわけだけど、期待していたような展開にはならない。なんでこんなに苦しいの?なんでこんなに報われないの?という絶望的な気分になる。もう、全然すっきりしないよ、勘弁してよ、という感じ(これも、作者に対してというより、そういう現実がまかりとおる世界に対しての憤り)。

話の展開には暗澹たる気持ちになるが、ラストの情景描写の美しさは圧倒的。最後の2ページが凄い。「僕」が並木道に立って見ている風景が目の前に広がってきらきらと輝き出すようで、読みながらぞくぞくした。ある方法によって新しい世界を手に入れた「僕」が見た、信じられないような美しい光景。いま確かにこの世界は美しくて、その美しさにただ打ちのめされていること。

そこに救いがあるのかどうか、私にはどうしてもわからないんだよなあ。それがもやもやした気持ちを生んでいるわけで、ああ、気持ちわる気持ちいい。読んでよかったけど、読み返すのはキツイ。そしてやっぱり人にはあんまり薦めたくない。けど、おすすめ。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)