旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


読書記録。いい男と純情高校生と少女とすごす夏

気がついたらセミが大合唱している。連休三日目、今日はまだ暑さもマシ。クーラーを入れない部屋でころがって本を読む。おやつに水ようかんを食べようかなあ。

さて、最近おもしろかった本。

垣根涼介 『君たちに明日はない』

首切りを専門に請け負う会社の面接官(退職勧告者)と、首を切られる被面接者の話。主人公である面接官・村上(男)がカッコいいんです、という一言に尽きる。見てくれがよくて頭がきれて仕事がデキて、ちょっと軽薄なようで実は甘えん坊、みたいな。で、いつも年上の女と付き合ってる。まったく鼻持ちならんヤツ。でもいい男(はぁ…)。キャラ設定がわかりやすいのでドラマ化しやすそう。

五編がおさめられている中でも、三編目「旧友」が良かった。会社に勤めることの目的や理由付けは人によって実にさまざまだけど、村上はそこをクールに切り崩したり、素知らぬふうに別の道を示してやったりする。仕事と、会社と、尊敬できる上司と、自分と、自分の周りの人々と、それらの距離感を冷静に見ることができる能力ってのが必要だなと思ったり。

面白いんだけど物足りなく感じてしまったのは、この作家との出会いであった『ワイルドソウル』という小説が超絶衝撃的だったせいか。あれは最高におもしろかった。この『君たちに~』は続編が出ているらしいので、とりあえず読んでおこう。

君たちに明日はない (新潮文庫)

君たちに明日はない (新潮文庫)

 
ワイルド・ソウル 上 (新潮文庫)

ワイルド・ソウル 上 (新潮文庫)

 

 

吉田修一 『初恋温泉』

説明しすぎないのがいいなと思った。これを読んでいるあいだじゅう、小説っていいなあというようなことを感じていた。どこがどうと説明できないのだけど。

実在する有名温泉宿とそこを訪れる男女、という設定の物語が五編おさめられている。「温泉宿」に出かけることの特別感ってこういう感じか、と外から再確認した気持ち。ふだん仕事でしょっちゅう温泉旅館やホテルの記事を作っていると忘れそうになるけど、温泉に浸かったり宿に泊まったりすることの非日常な感じの中って、気持ちが敏感になったり大胆になったり、(日常に戻るとき何かが変わるかも)って思ったり、そういうのあるかも。一般論として。そこに男女の機微だとか、なんということのない一瞬の情景とかが、すごく上手に書かれている。決して説明しすぎないように。

一番好きだったのは、親に内緒でお泊まり旅行に行く高校生カップルの話かな。「いつか好きじゃなくなる日がくるなんて考えられない」っていうその気持ち、その瑞々しさ! なんだか胸が苦しくなったよ、ねえさんは。

初恋温泉 (集英社文庫)

初恋温泉 (集英社文庫)

 

 

島本理生 『あなたの呼吸が止まるまで』

途中で起こる、ある事件。もう、汚い!あんた汚いよ!と作中人物および作者に向かって憤怒。主人公は12歳の少女なのだが、それゆえの非力さと潔癖さと気高さがあってやりきれぬ(そしてそういう設定は私のツボ)。善人のふりをした悪人って、少女が対峙するにはハードル高すぎる。とりあえず救いが感じられるラストになっていてよかったけど。

あなたの呼吸が止まるまで (新潮文庫)

あなたの呼吸が止まるまで (新潮文庫)