旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。



読書

北極の夜を越え、4か月ぶりに見る太陽とは。『極夜行』角幡唯介

『極夜行』角幡唯介 数年前から妙にはまっている、探検家で作家の角幡さん。『極夜行』は2018年2月発行で、昨日11月8日にノンフィクション版本屋大賞の第1回受賞作に選ばれた。やったねえ角幡さん! この本について著者本人が「評判はいいし各所で取り上げら…

冲方丁『天地明察』感想。江戸時代の改暦プロジェクトに胸が熱くなる

冲方丁『天地明察』 江戸時代に、それまで800年にわたって使われてきた中国由来の暦を改め日本独自の暦を作ろうとした学者・渋川春海(=安井算哲)の物語。春海は職業としての碁打ちであり、かつ数学、天文学、暦学に通じた人物。まだまだ精密な望遠鏡とか…

恩田陸『蜜蜂と遠雷』感想。ピアノコンクールの舞台に立つ演奏者の姿が立体的に見えてくる

恩田陸『蜜蜂と遠雷』 2017年本屋大賞&直木賞受賞作。国際的なピアノコンクールに挑む、主に4名の演奏者にスポットをあてた小説。ああ、いい読書体験をしたなあと心底うれしくなる作品だった。 コンクールの舞台上で奏でられるピアノ、その曲名やメロディー…

三浦しをん『ののはな通信』感想

三浦しをん『ののはな通信』角川書店 女ふたりの書簡小説。地の文は一切なし、1冊すべてが手紙のやりとりで交わされる。 「のの」と「はな」のふたりが、同じ女子校に通う高校時代から40代になるまでの二十数年間に交わした手紙の数々。その中には、返事が来…

北極で全滅した探検隊を追う、極上のノンフィクション。角幡唯介『アグルーカの行方』

「アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」角幡唯介 フランクリン隊は、19世紀の北極圏で当時まだ発見されていなかった北西航路を開こうとした探検隊。その目的を果たすことなく隊員129人が全滅するという衝撃の結末を迎えたのだが、現…

〆切に追われる作家を見る、という楽しさ。「〆切本」

〆切というのは嫌なものだ。仕事の〆切のない世界に行きたいと何度願ったことか。私にとって〆切は、時間や作業量をきちんと区切って健全に過ごすための指標、という前向きなものになることはあまりない。どこまでも追ってきて、追いつめて苦しめて息も絶え…

小鳥の声に耳を傾けたくなる本。小川洋子『ことり』

『ことり』 朝日文庫 小川洋子 シャーリー・ジャクスンの小説「ずっとお城で暮らしてる(感想)」に続く、世間から微妙にはみ出している兄弟の物語(あっちは姉妹だったが、こちらは兄と弟)。 兄は鳥の言葉を理解することができる。というか鳥の言葉はわか…

川上未映子『きみは赤ちゃん』

『きみは赤ちゃん』 川上未映子/文藝春秋 川上さんの妊娠から出産、子どもが一歳になるまでを書いたエッセイ。 これまでのエッセイを読む限り、川上さんは妊娠に対して積極的なわけではないという姿勢、態度だったと思う。「女性であるからには一度は産んで…

古書と古民家とつきさむの午後

4月23日は「本の日」だよ、本を贈り合う風習があるのだよと教えてもらい(そして本をもらい)、へえ、そんなのあるんだ!と知ったその翌日、静岡市内で開かれた本のイベントへ。「春の探書会」。 静岡市街から車で北に30分、文化財でもある山あいの古民家「…

思いと行動の不一致。「もう二度と食べたくないあまいもの」

最近、井上荒野さんの小説にハマってる。 お気に入りのカフェでケーキを食べつつ読書にふける幸福感。 『もう二度と食べたくないあまいもの』 (わたくし、甘いものは飛び抜けて大好きです)

恋愛は長編劇画か4コマ漫画か。『異性』穂村弘、角田光代

『異性』穂村弘、角田光代/河出文庫 恋愛や男女のあれこれを穂村さんと角田さんが語る往復書簡のようなエッセイ。「別れた相手に不幸になってほしいか」「好きだから許せる&好きだけど許せない」「私の真価に早く誰か気づいて」などテーマの切り取り方が絶…

姉妹の美しくも異常な日常、「ずっとお城で暮らしてる」

小説『ずっとお城で暮らしてる』を読んだ。シャーリー・ジャクスン著、市田泉訳、東京創元社。 これまでに読んだことのないような、というか自分が手に取ったことのない種類の小説だった。ジャンルで言うと、サイコホラー? とある町はずれの広大なお屋敷に…

優しい恋人か才能のある恋人か。『たましいのふたりごと』

『たましいのふたりごと』 穂村弘、川上未映子/筑摩書房 穂村さんと川上さんという大好きな著者二人の対談集、表紙には心そそられるキーワードが散りばめられており、これが面白くないはずがない!と勢い込んで読み始めたのだが、なんとも残念なことに、全…

梨木香歩 『雪と珊瑚と』

『雪と珊瑚と』 梨木香歩、角川文庫 あらすじも何も知らず、書店て背表紙だけを見て買った。梨木さんの小説は『f植物園の巣穴』も『村田エフェンディ滞土録』 も『家守綺譚』も非常によくて、日常と地続きに現れる非日常の気配がたまらなく好きなのだが、『…

ポール・オースター 『ムーン・パレス』

『ムーン・パレス』ポール・オースター、柴田元幸訳、新潮文庫 昨年読んだ同じ作者の作品がとてもよかったので(ポール・オースター「幻影の書」の感想)、次は評判の高い長編を読んでみた。ジャンルは「青春小説」だろうか。これがもう、すさまじく面白かっ…

私たちはどこに向かって吠えればいいの。酒井順子『負け犬の遠吠え』

2003年の出版当時、問題作・衝撃作として話題になった、酒井順子『負け犬の遠吠え』。それから13年後の今、初めて読んだ。 この本の定義する負け犬とは、30歳以上、未婚、子どもなしの女性のこと。著者がこれを書いたのと今の私がだいたい同じ年齢で、同い年…

新年最初の買い物は、太宰治の『女生徒』

正月一日二日は外出もせず家にこもり、家族でボードゲームに熱中するうちに時間が過ぎた。年に一度、お正月にモノポリーで遊ぶのが我が家のならわしである。平和。 三日になってやっと外出。初詣にも初売りにも行かない私が、年が明けて初めて入ったお店は……

つきさむのケーキと、雪山遭難の短編集

今年のつきさむ納め。ホットケーキは売り切れだったけれど、シナモンガトーショコラ(ホイップクリームといちご添え)が美味しかった。 おやつを食べながら熟読していたのは新田次郎の短編集「アイガー北壁・気象遭難」。主に雪山で、人が滑落したり遭難した…

ポール・オースター「幻影の書」

「幻影の書」ポール・オースター著、柴田元幸訳、新潮文庫 時間も気分もどっぷり読書に浸かりたいと思っているときに書評で見つけた小説。事故によって不意に絶望に突き落とされた主人公のもとに、ある日、何十年も前に失踪したまま行方知れずになっている映…

みちくさをしたくなる。街歩きのお手本「みちくさ」菊池亜希子

「みちくさ3」 菊池亜希子 (小学館) 本屋さんに平積みされているのを立ち読みして、これはイイ!と迷わず買った本。 超詳細なイラスト地図で街歩きの楽しさがぎゅーっと紹介されている。どのページ、どの街を見ても、いいなぁ、行ってみたいな、履きなれた…

梨木果歩「村田エフェンディ滞土録」

「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩/角川文庫 土というのはトルコ(土耳古)のこと。明治時代にトルコに留学した村田くんの滞在記、という体裁の小説である。 すばらしく贅沢な読書の時間だった。梨木さんの小説はいいなあ。ため息。 トルコ・イスタンプー…

本とおでかけしたくなる。雑誌CREAの特集がよい

CREAの最新号(2015年9月号)が良い。テーマ、本とおでかけ。それだよ!まさにいま私がやりたいこと。 びっくりしたのは、銀座千疋屋のフルーツサンドが紹介されていたこと(本を読みながら片手で食べられるものとして)。ちょうどこの日の昼、友人から突然…

このドキドキの正体は何。酒井順子「女子と鉄道」

ただいま夏の青春18きっぷ期間。今すぐにでも電車旅に行きたいのだが、すぐには行けない休日のお供はこれ。 酒井順子「女子と鉄道」光文社文庫。鉄道好きの著者によるエッセイである。 「深夜に時刻表をめくりながらプランを考えているときの興奮は恋をして…

「青春18きっぷ ポスター紀行」で25年分のポスターを旅する

JR青春18きっぷのポスターはいつもいつも素敵だが、その25年分のビジュアルと制作秘話をまとめた本が出ていたので即購入。これはいい。浸ってしまう。10年とか15年前のポスターでも、今も鮮明に覚えているものが結構ある。ドキドキするし、涙が出そうだ。な…

もう持ってるのに「ルナティック雑技団」新装版を購入

全3冊まとめ買い、おととい発売の「ルナティック雑技団」新装版。オリジナル版が家にあるっていうのに! りぼんコミックスらしからぬ怪しすぎる表紙と、未収録原稿をついに収録!という謳い文句。そりゃ買うでしょうよ。一冊600円と地味に高いのが腑に落ちな…

共感必至、小説「勝手にふるえてろ」

綿矢りさ「勝手にふるえてろ」文春文庫。面白かったー、綿矢りさのことがまた好きになった。 主人公は26歳にして恋愛経験なしの女性、オタク気質で現実世界になじめてなくて、思い出と妄想ばかりを一人でふくらませまくって身をよじらせている。こじらせ女子…

雑誌「オズマガジン」の山のぼり特集に思うこと

雑誌の発売日を、指折り数えて楽しみに待つなんて、いつ以来?先月、たまたま「次号予告」を見てからずっと楽しみにしていたのがこれ。 オズマガジン最新号「アウトドア特集」(スターツ出版)。とくにページを割いているのが「はじめての山のぼり」。 あの…

話題のミステリー、 ピエール・ルメートル「その女アレックス」

「その女アレックス」 ピエール・ルメートル、訳・橘明美 (文春文庫) このミステリーがすごい!をはじめ、ミステリー部門各賞を総なめにしている話題作。書店や書評では「大逆転」「衝撃の展開」「徹夜覚悟」と紹介されていて、おっしゃあ徹夜上等!と思っ…

綿矢りさ「かわいそうだね?」

久々に綿矢りさの小説を読んだ。「かわいそうだね?」文藝春秋。もーなにこれ、ものすごく面白かった!! 主人公は30歳手前の女性、デパートのファッション売り場で働いている。あるとき、恋人が自分の家に元彼女を居候させると言い出した。当然ながら反対す…

死ぬまでずっと旅の途中。筒井康隆『旅のラゴス』

筒井康隆の小説『旅のラゴス』を読んだ。文句なしで、とてつもなく面白かった。たまにこういう本に出会う興奮があることが、読書をすることの幸せ。 ジャンルやあらすじを説明するのは難しい。私には、今までに読んだことのないタイプの物語だったな。初めの…